日本科学未来館でのイベント(2009年3月29日)

2009年3月29日に、以下の内容で「台風メモリーズ」の展示をおこないました。

台風メモリーズ〜迫力の「ひまわり」映像と「アメダス」データを体感しながら台風の思い出を語ってみよう!
過去30年間に日本各地に接近した台風を検索し、科学データを映像と音で体験できるシステムを公開します。
日時:2009年3月29日(日) 11:00〜17:00
13:00-13:30と15:00-15:30には、今回の展示を企画した北本がワークショップを開催する予定です。
場所:日本科学未来館
7Fイノベーションホールにお越し下さい。
入場無料・予約不要
日本科学未来館の展示は基本的に有料ですが、本展示は無料ゾーンで開催します。

助成

国立情報学研究所 公募型共同研究費
科学コミュニケーションを促進する地球環境データベースの開発

メンバー

企画・データ管理・運営
北本 朝展(情報・システム研究機構 国立情報学研究所)
共同研究者・映像手法開発
近清 武(日本科学未来館
インスタレーションプロデュース(ライゾマティクス
ディレクション:齋藤 精一
デザイン:齋藤 精一/木村 浩康
プログラミング:堀 宏行
機構デザイン:水谷 隼人

イベント報告

今回は、気象衛星画像とアメダスデータを中心とした「台風メモリーズ1」を、日本科学未来館で公開しました。日曜日の1日限りのイベントでしたが、150名から200名ほどの方に来場していただき、イベントは盛況のうちに終えることができました。皆様、ご来場ありがとうございました。春休みということもあって、親子連れや子供グループの来場者が多かったような感じでした。東京だけではなく、遠いところでは宮崎や山形から日本科学未来館をたまたま訪れた子供たちもおり、色々な方々と直接に接してお話できるよい機会となりました。

さて今回のイベントを開催した東京という場所ですが、東京に強い台風が来ることは実はそれほど多くありませんので、東京の人々は台風の影響を強く受けたという経験に乏しいのが実情です。もちろん、電車が止まった、傘が折れた、という程度の経験はありますが、それは季節の風物詩的なもの。中には、旅行がめちゃくちゃになった、出産日に台風が来た、というような個人的な記憶を持つ人もいるかもしれませんが、長年にわたって記憶に残るような大事件を経験した人は一般的に少なめと言えるでしょう。来場者の方々に台風に関する記憶を伺ってみても、「記憶に残る台風?うーん、特にはないかな。」という反応が多く、どうやら台風の記憶を語れる人は少ないらしい。。。そんな土地柄での開催となりました。

このような東京の人々の反応に対して、九州からたまたま来場した方々の記憶はもっと具体的でした。例えば、宮崎から来た方々は、どんな台風のデータが見たいかという質問に対して、「台風14号のデータが見たい」と即座に言いました。2005年に宮崎に大きな被害を与えた台風14号のことです。まだ3年半前と最近の台風なので、当時の被害に関する記憶が皆さんにも鮮明に残っているのでしょう。台風が常襲する地帯に住む人々の台風に関する記憶には、東京の人たちとは異なる具体性があるように感じました。次回以降は、九州や沖縄など台風に関する記憶が豊富な土地でイベントを開催すれば、東京とは違った反応が返ってくることでしょう。

東京の方々は記憶に残る台風があまりないことがわかってきましたので、台風の記憶よりも場所の記憶に重点を移し、皆さんにゆかりの深い場所を過去にどんな台風が襲ったかを探っていくことにしました。アメダス観測所は日本全国にほぼ均等に配置されていますので、自分の現住所だけではなく自分の故郷などでも、必ず近くにアメダス観測所を見つけることができます。故郷のアメダス観測所を探すうちに故郷の記憶がよみがえってきたり、親から子供に向けて故郷のことを話し出したりする方もいました。床面に表示された日本地図上で場所を選ぶというインタフェースは、少なくとも自分の故郷を思い出すツールとしては役立ったようで、ここからさらに台風という「こと」の記憶へとつなげていきたい。自分が選んだ地点を通過した過去に最も強い台風を知りたいという要望など、今回の「台風メモリーズ1」では応えられなかった要望もありますので、次のバージョン以降で実現していければと考えています。

次に「台風メモリーズ1」の表示システムについてまとめます。最も好評だったのが、実は床面投影でした。天井に吊したプロジェクターから床面に地図と雲画像を投影したのですが、特に子供たちには床面の雲画像が大好評で、雲の上に寝転びながら歓声を上げていました。大人たちにとっても、自分の足元に画像が広がっているという雲の上を歩くような感覚は、非日常で新鮮だったのではないでしょうか。また、大画面での画像やデータの投影も好評ではありましたが、本システムのように3面も用意して別々のデータを表示しても、全部を見るような余裕はないこともわかりました。3面投影ではデータ量が多過ぎるのであれば、次回以降のシステムでは、大好評だった床面投影と、大画面の壁面投影と2面ぐらいの投影でも十分かもしれません。

「台風メモリーズ」は、来場者が双方向的に参加するシステムを目指しています。まず自分の記憶に残る台風を選び、そのデータを見て、そこで感じたことをウェブサイトに書き込むというストーリーです。最初に述べたように、東京は「記憶に残る台風があまりない」という土地柄ですので、このような能動的な行動を始めるきっかけがない人も多く、このストーリーはやや難しかったかもしれません。むしろ「これを見て下さい」というオススメも用意することで、ひとまず体験だけはできるようなメニューが必要だったかなとも感じています。従来のような「見るだけ」という展示の一方向性から脱却し、選んで見て書く、という双方向性を目指すのが「台風メモリーズ」の狙いの一つですので、参加者の負担を減らしつつ気軽に参加できるシステムへと発展させていくことが、次のバージョン以降の課題だと考えています。

最後に会場ですが、入口から入っていくと正面と床面に大画面が広がるという贅沢な空間は、日本科学未来館のような大規模な施設でないとなかなか実現できないもので、この点は来場者の方にもインパクトがあったのではないかと思っています。床面投影が人気だったということも述べましたが、これには床面投影にある程度の大きさが必要で、そのためには高い天井を持つ部屋が必要です。このあたりの施設の充実度は日本科学未来館ならではです。イベントの反省点としては、人手が足りなかったことと、会場案内図や趣旨説明のパンフレットなしで参加者の誘導があまりスムーズに進まなかったこと、などがあり、次回以降はもっとスムーズに進められるように準備していきたいと考えています。

今回が初のイベントという、経験不足で手探り状態だったこと、当日朝の開場直前までシステム調整をするという綱渡りスケジュールだったこと(実はバグも残っており、ご迷惑をおかけしました)もあり、イベントとしてはなかなか苦労も多いものとなりましたが、大画面とマルチスピーカーによる台風体験は、確かにウェブサイトでも他の施設でも味わえない独自のものでしたので、来場者の方には楽しんでいただけたのではないかと思っています。次回のイベントでは、今回のイベントの反省点を生かして、さらに充実したものにしていきたいと考えています。

会場風景

会場の様子を撮影したビデオも公開します。ビデオカメラの設定ミスにより色がおかしくなっていますが、ご容赦ください。

当日の再生記録

「台風メモリーズ1」は、参加者の方々がどのような台風とアメダス観測所を選んで再生したのかを記録する機能を持っています。そこで当日の108回の再生を台風ごと、アメダス観測所ごとに分析して、以下のような統計を作ってみました。

まず台風ごとの統計では、台風200514号が最も多い再生回数となりました。これは、上にも紹介しましたように、宮崎の方々からこれを見たいという要望をいただいたこと、またこの台風が直近では全国的に大きな影響を与えた代表的な台風であることによるものです。

一方でアメダス観測所ごとの統計では、室戸岬が最も多い再生回数となりました。ここは風が強いアメダス観測所の代表的な場所ですので、音像を体験するために適した場所として、再生回数が増えたことが原因です。また、東京近郊のアメダスはそこの近所にお住いの方の要望に応えたものですが、その他全国的に広がる場所の中には、故郷のアメダス観測所を見たいという要望に応えた再生もあり、ここに示した再生記録は、さまざまな方々の記憶や思いを反映したものと言えます。

台風ごとの再生数

アメダス観測所ごとの再生数